Time Paradox
昼食を終えると、中庭には二人分の紅茶とお菓子がセットがされていた。

リリアーナは重い足取りで中へと進むと、程なくしてクラリスが現れた。

「どうぞ、座って。」

リリアーナは椅子に腰掛けると、向かい合った席にクラリスも腰を下ろした。


短い沈黙の後、クラリスは穏やかに口を開いた。

「…こうやってここでお茶するのも久しぶりね。あの頃はヴィヴィアン様も一緒だったかしら?」

ヴィヴィアンと言う言葉に、思わずリリアーナは顔を上げた。

クラリスの言うヴィヴィアンとは、リリアーナの実の母親であり、前国王妃のことである。

「…あなたをここに誘ったのはアドルフの事を聞きたかったのもあるけれど、またここでお茶会をしたかっただけなのよね。」

クラリスの微笑みに、リリアーナは少し心が軽くなった。

「ハンナもよく聞いてたんじゃないかしら?ヴィヴィアン様は本当はエドモンド様との結婚を望んでいなかったって。」

「それは何度も母に言われました。だからハンナには望んだ人と結婚してほしいって…」

リリアーナは母親のヴィヴィアンを思い出し、少し胸がつまりそうな気持ちになった。

「ハンナはヴィヴィアン様とよく似てるから…なんだか心配になるのよね。」

クラリスが次に言う言葉は、リリアーナにもなんとなく想像がついてしまった。

「それで聞きたかったんだけど…この結婚はハンナにとって本当に望むものだったの?申し訳ないけど、私にはそうは見えないの。」

リリアーナは言葉が出なかった。

「マーカスに殺されかけて、それを免れるためにもアドルフとの結婚を決意したんじゃないかしら?…でも、本当にそれでいいの?」

「私は人間界に行く前…あの日まで、アドルフを好きだったんだと思います。でも記憶を無くしてからはジャックに出会って…」

「やっぱりね…それで彼と自分自身の身を守るために結婚の話を承諾した…そういうところ、本当にあなたのお母様にそっくりね。」

クラリスはそう言うと、初めて紅茶を口にした。

「あなたがどんな選択をしようと自由よ。ただ、ヴィヴィアン様とエドモンド様は1つだけ同じ志を持っていたの。なんだか分かる?」

リリアーナは首を傾げると、クラリスは微笑みを浮かべて答えた。

「今としては叶わなかったことだけれど…昔ながらの魔法国家を守り抜く事。」

それはリリアーナとって、まるで初めて聞く話だった。
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