Time Paradox
ジャックはというと、これまでにないほど早番のアルバイトが居た堪れない時間となった。

開店前の空気はジャックが寝坊してきたことに対してなのかと思ったのだが、早い開店にしては客がいつもより多すぎる。

さらに、客の視線はホールで働くジャックに釘付けだし、何か小声でヒソヒソと話し合っていて、異様な雰囲気だったのだ。


しばらくして店長はジャックを厨房へ呼び出し、こう言った。

「…ジャック、悪いがしばらく休んだ方がいい。まぁ分かっているだろうが、外出も極力控えろ。」

「…え？わ、分かりました。」

いきなりのことにジャックは戸惑いながら更衣室に戻ろうとすると、思い出したようにまた店長が呼び止め、更衣室に入り、帽子をジャックに手渡した。

「それ、店長がいっつも被ってるやつ…」

ジャックが言うと、「ないよりはマシだろ？それから…」と言って店長は自分のロッカーをまた漁り、今度はサングラスを手渡した。

「完全に怪しい人だが…まぁ、あれだ、グッドラック！」

店長はそう言って親指を立て、いそいそと厨房に戻って行ってしまった。

ジャックは一人で更衣室に入ると、すこし…いや、かなり中高年の香りの漂う帽子とサングラスを椅子に置き、着替えた。


着替えを終えて外に出ようと思った時、ふと店長からの餞別であるニット帽とサングラスを思い出した。


「それにしても、外出控えろって…俺そんなに顔色悪かったか…？」

だがジャックも薄々気が付いていたが、軽い変装道具を渡されるくらいには切羽詰まった状況だというだろう。

店長のかぐわしい香りが染み込んだ帽子を被るのは少し躊躇われたが、街の人にまで今日の客のように視線を注がれるなんて溜まったものではない。

ジャックは店長に借りた２つのアイテムを装着すると、全身鏡の前に立った。

「…意外とサマになるもんだな。」

そう呟いて外に出た。
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