Time Paradox
しばらくしてから、ジャックはぼんやりとテーブルに散らばる前日までの朝刊を眺めていた。

1日前のもの、2日前のもの、さらには1週間前のものと、大きな見出しと写真に目をやっていたが、ふとある事に気が付いた。


そのうちの一枚に、見覚えのある猫の後ろ足から尻尾までが写っていたのだ。

リリアーナとジャックがいた場所を横切って行った、白靴下にかぎ尻尾の猫だ。

7の数字を描くような曲がった尻尾は、この街ではあまり多くないはずなのだが…。

ジャックは気になり、さらに前の新聞の写真も漁った。

すると、他の写真にも何枚か同じ猫が写っている。

考えすぎなのかもしれないが、この猫の飼い主は新聞に携わる人物なのではないか。


というのも、モンフォワーシュでは王家のスクープなども取り上げるため、表立った新聞会社を作らず、トラブル回避として全て極秘で行われるのだ。

そのため、誰がこの写真を撮ったのかも分からないのだ。

現に、ルクレツィアの家系であるチューリッヒ家もスパイなのではないかという疑惑が立っており、どこの貴族がやっていてもおかしくはない。

ジャックはさらに家にあるだけのすべての朝刊を拾い集めると、写真を確認した。

すると何と、15日分の新聞の中から猫が写っている写真が6枚見つかったのだ。


その作業を見ていたセドリックだが、「あっ」と声を上げた。

「どうして猫の写真はどれも至近距離で撮れてるんだ?ジャックの写真を見たときもそうだが、こんなに近くでシャッターを切られたら普通は気付くだろう?」

言われてみればそうだった。

ジャックは写真を撮られていたこと自体全く気が付かなかったのだ。

「…でも、意外と遠くから撮ってたんじゃないか?もしかしたら、拡大レンズを通して撮ってたとか…」

「いや、それはないな。だって拡大レンズを通して撮影してたとしたら、少しは写真の端が歪んでいるはずだろう。それに、拡大レンズはプロでもピントを合わせるのに時間がかかる。その時は何か物音とかしたりしなかったのか?」

「物音かぁ…たぶん、猫が植え込みの辺りから出てきた時の音くらいで…」

「それだ!きっとその音でカモフラージュしていたんじゃないか?撮影者はわざとガサガサ音を立て、その瞬間に撮影して猫を放り込んだんだ。一人でも出来なくはないが、助手か何かが付き添ってそうだな。」

妙に写真に詳しいセドリックだが、実は趣味で写真を撮っていて、何度か賞にも選ばれるほどの腕前なのだ。

「…てことは、この猫の写っている写真はどれも音が聞こえてしまう可能性のある距離で、その他の写真は…そうだな、窓の外から撮ったような写真や、辛うじて顔が識別できるくらいの写真ばっかりだ!」

「…まぁ、俺の憶測ではな。」

そう言うと、セドリックはコーヒーを淹れにキッチンの奥へと引っ込んだ。
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