Time Paradox
しばらくしてリリアーナが落ち着いた頃、デリックが口を開いた。

「何があったかは大体察しはつくが…これからどうしていこうと思ってるんだ?」

リリアーナは小さな嗚咽のあとにワンテンポ遅れて小さく「分からない」とだけ答えた。

「…まぁ突然の事だったから無理もないんじゃないかしら?だってこういう事態は今までになかったんだもの。」

「そうだな…私はリリアーナ様が落ち着くまでここにいても良いだろうし、公の場に出て騒ぎに収集をつけるのも自由だと思っている。匿えるだけの部屋も設備もある。」

イザベラとモーリスが言った。

「…でも、私のせいで巻き込まれたりしたらアーノルド家の人達は迷惑にならないかしら?」

「…まぁ、ひとつ心配な事があるとしたら、エラ・チューリッヒだな。」

「エラ…チューリッヒ?」

「この屋敷に雇っているお手伝いさんですよ。」

リリアーナはルーカスの言葉に、自分に毒を盛ったあの幼い子を思い出した。

「エラがあのルクレツィア・チューリッヒの妹であるということはイザベラの情報で明らかだ。そして憶測だが、そのチューリッヒ家はスパイの家系かもしれない。」

「スパイって…じゃあジャックに近付いたのも…」

「あぁ、恐らくそういうことだ。」

「それにルクレツィアさん、整形しているかもしれないの。デルーロ家のニコラスさんが言ってたわ。」

「整形…聞いたことくらいはあるけど、私のいたルッケルンガルはあまり豊かな国じゃないみたいだから、している人は見たことがなかったわ。そもそもそんな技術はかなり発展してる国にしかないと思うけど。でも、たしかに電車を乗り継いで空港に行けば外国にだって行けるものね…。」

リリアーナはそう言って遠い目をした。

「…それにしても、デルーロ家とチューリッヒ家が親戚だという事をどうして隠していたんでしょうか?
うっかりニコラスさんが口を滑らせたから聞けたみたいですが…」

「そうなの。あの反応、明らかにマズイこと言ったって顔だったわ。」

「そんな事、俺たちはおろか他の貴族でさえ知らなかったみたいなんだけどな。」

「…とりあえず、エラには何か理由をつけて休んでもらう事にしよう。リリアーナ様をここに匿っているのをチューリッヒ家の人間に知られたら面倒なことになりそうだ。」

「今日は休みだったから、来るのは明日のはずよ。その前にリリアーナ様を隠しておかなきゃ…」

「基本的にエラは、7時半よりも早くこの家に来る事はないので、それまでにリリアーナ様に隠れていただければ問題ないはずです。」

「それで…私はどこに隠れてればいいのかしら…?」

リリアーナが不安そうに尋ねるが、イザベラとルーカスの二人はニヤニヤと顔を見合わせる。

「そうねぇ。もちろんそれは…」

「アーノルド家に代々伝わる秘密の場所でございます。」

二人がそう言うと、デリックも「明日になれば分かるよ」とだけ言った。
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