Time Paradox
リリアーナはイザベラの意味ありげな表情に首を傾げた。

「この井戸に入っていただきますわ。」

その言葉にリリアーナは口元を押さえた。

「まさか！この井戸の中に隠れるだなんて…」

「大丈夫、この井戸はただの井戸じゃありませんわ。異次元に繋がる井戸ですの。」

「異次…元、ですか…。」

リリアーナは異次元と言われてもピンとこないようで、ぼんやりと井戸の方を見つめながら想像力を働かせていた。

「リリアーナ様、そんなことよりも急がなくては！屋敷の人間はもうそろそろ起きているはずですよ！」

「待って！本当に繋がってるの？もしそれが嘘だったら…井戸になんか飛び込んだら私、死んでしまうわ！」

「私だって入ったことくらいありますわ。人によって感じ方も違うから、見える世界も違うみたいだけど…とりあえず急いでください！私を信じて！」

リリアーナはその言葉を信じるしかなかった。

井戸の淵に左足を掛けると、後ろに立つイザベラに振り返った。

「イザベラは来てくれるの？」

「私は行けませんわ！…だってリリアーナ様を捜しに来た城の者に言い訳をしなくてはなりませんもの。そんなことより急いでください！」

リリアーナはもう片方の足を井戸の方に運ぼうとして井戸の中を覗き込むと、僅かに光を反射する水面がずっと下に見える。

「もう！リリアーナ様、時間がありませんわ！この下は絶対に大丈夫なので…えぇい！」

しびれを切らしたイザベラは、躊躇うリリアーナの背中を思い切り押した。

「ちょっ、イザベラぁぁあ！」

リリアーナの声にならない悲鳴はどんどん遠くになっていき、やがて反響もしなくなっていった。
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