Time Paradox

ヴィヴィアン・プレスリー

リリアーナは目を覚ますと、春のように暖かい陽が射す芝の上に倒れていた。

「…あったかい…」

伸びをしながら体を起こすと、森に囲まれた小さな屋敷が目の前に建っているのに気がついた。

屋敷は外から見る限りだと二階建てで、一階に2部屋、二階にも2部屋しかないようだ。

白い外壁に薄緑色の窓枠、それと同じ色の屋根には小さな煙突も付いている。

一階の開いている窓から覗くと、左右の壁はびっちりと本棚で埋まっていて、入りきらなかった本は部屋の隅に積まれていた。

「…本をたくさん読む方なのね。」

リリアーナはそう呟いて辺りを見渡すと、玄関のドア脇に咲く花に水やりをしている女性を見つけた。

やはり家の外観的にも家主は女性のようだ。


だが玄関の脇に花なんて咲いていただろうか。

リリアーナは先程の書斎に目をやると屋敷の周りにまで花が咲いていて、書斎の窓辺には一輪のコスモスを生けた小さな花瓶が置かれている。

「…いつの間に…?」

「あら、魔法がそんなに珍しいかしら?」

女性の声に振り返ると、リリアーナは息を呑んだ。

それは声も顔も形も、紛れもなくリリアーナ…いや、ハンナの母親、ヴィヴィアンのものだった。

「お母様⁈」

「そうよ、ハンナ。久しぶりね…待ってたわよ、おそらく1週間前くらいから。」

「…どうして分かったの?そういえば…お父様は?」

「連れてきてないわ。この世界でくらい、一人になりたいもの。」

ヴィヴィアンは昔からそうだった。

夫のエドモンドとは常にある一定の距離を置いていて、さらに一人の時間を彼に侵されると気分を害すのだ。


「それで、聞きたいんだけど…ここって一体どこなの?お母様が居るってことは私…」

「大丈夫、あなたは死んでないわ。ここは私達の住んでいた世界から次元がほんの少しずれた場所なの。完全にこの世界に住むことはできないけれど、私達の世界からもハンナのいる世界からも一時的に来ることができるの。まぁ、言うならば休憩所みたいなものかしらね?」

「なるほど…じゃあ私達が会えるのはこの世界だけってことなのね?」

「そういうことになるわ。あの世に来てしまったら帰れないもの。あとね、この世界の景色は人によって見え方が違うのよ。あなたからはどう見えているのか分からないけど、私は小さな家の周りに広い庭があって、そこに二人で立ってるわ。庭の門の外には街があるわ。」

「えっ!私は森の中に二階建ての屋敷が見えて、その中に…」

「…全然違うのね!でもさっきあなたが来たのに気が付いて間に合わせで花を咲かせたわ。窓辺に花も…」

「あぁ!だからなのね!すごい、面白いわっ!」

リリアーナはそう言って駆け出し、芝生にまた寝転んだ。
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