Time Paradox
「私が魔法商のプレスリー家を背負って城に嫁いだのはいいけれど…国王と王妃の力を持ってしてでも、加速する人間界化には歯が立たなかったわ。あの感じだと明らかに見えない力が働いていたと思う。
それに、マーカスとクラリスも昔からの魔法界らしい国を守りたかったみたいなんだけど…すれ違いが起きてしまったのよ。」
「…すれ違い?」
「えぇ。エドモンドは何者かに嘘の情報を吹き込まれたの。“マーカスの本当の望みは、モンフォワーシュを人間界化して金儲けすることだ”とか。最初はエドモンドもそんな話信じなかったんだけれど…徐々に洗脳されたのか、マーカスにそのことを問いただしたり辛く当たったりしたの。
それにマーカスが嫌気がさしてきた頃、今度は“近々マーカスが辞職し、人間界から物を仕入れて金儲けをしようと考えている。それがうまく行けばエドモンドは殺されるだろう”なんて囁かれたみたいで…あの時はもう私はおろか、誰の忠告も聞かなくなってしまっていたわ。それでタイミング悪くマーカスが辞職しようとしていたところ、鉢合わせたエドモンドが激昂したらしくて…まぁそれだけ聞くとエドモンドの方が悪いわよね?」
「でも…お父様を洗脳した人って誰なの?」
「あれから何度も聞いたんだけど…よく分からないってシラを切るわ。でもエドモンドはそんなに城から出られないはずだから、きっと城に出入りできる誰かのはずよ。それにね、昔から王家や貴族を陥れる厄介な存在がいるわ。それって何のことか分かる?」
「もしかして、新聞とか…」
「そう、マスコミよ。すぐ私達の揚げ足をとるようなことして、有る事無い事全て世間にばら撒くわ。それで不可解だったのが、マーカスに関して私達も知らないような情報が見出しに出ていたの。最初は私も記者が勝手にでっち上げたような記事だと思ったんだけど、エドモンドはそれを事実だと証明しようとするし、当のマーカスは真っ青な顔をしているもんだから明らかに本当のことだと分かったわ。でもエドモンドだけが知ってたなんて彼が漏洩させたとしか思えないし、マーカスの好感度を下げる記事の出た時期もタイミングが良すぎたの。つまり、私の考えなんだけど…」
「誰かがマーカスを辞めさせるよう誘導した…ってこと?」
「そうなの!おかしいと思うじゃない?きっとエドモンドを洗脳した人物は、少しずつエドモンドからマーカスの情報を拾い集めて悪い事だけを記事にし、マーカスが城に居づらい環境を作り出したんだわ。」
「つまり、洗脳した人と新聞記者はグルだった…?」
「同一人物だったって事も考えられるわ。まぁどっちにしたって、何者かが裏で糸を引いていたとしか思えないわね。」
「ところで…どうしてお母様達はそんなに人間界化を恐れていたの?人間界の技術が入ってくれば便利になるし、魔法界らしい国と共存させてしまった方が良かったんじゃない?」
ヴィヴィアンはリリアーナの言葉に視線を落とし、首を横に振った。
「…違うわ、ハンナ。共存させる事なんて無理なのよ…誰しも、どんなことにも得意不得意はあるわ。それは魔法に関しても同じ。魔法を使うのが苦手な人だっているし、生まれつき魔力が強い人だっている。あるいは1つの分野にだけ特化している人もいるわ。その個々のバラつきによって成功する人もいるし、残念ながら苦労する人も出てきてしまう。そのバラつきを埋めるのはもちろん人間界の便利な技術よね?
ここまではいいの。でも考えてみて。多かれ少なかれ魔法は誰にだって使えるわ。でも人間界からやって来た道具や技術は?どんな人が使える?」
「えっと…お金持ち、とか?」
「そう。逆に言えばお金がある人しか使えないのよ。」
「つまり、一部の人が金儲けするために…」
「そう。そして魔法でできてしまうことも道具を使ってしまうことによって、魔法の進化を止めてしまっているの。むしろ近年のモンフォワーシュは退化しているくらいだわ。そんなことになったらどんどん貧富の差は広がっていくばかり…魔法ならいくらでも進化できるけれど、人間の作り出すものには限界があるわ。もちろん人間界の文化や芸術は素晴らしいし真似したいものばかりよ…そうね、魔法界はそういう面が乏しいから。
とにかく、そうやって金儲けしたい一部の人達が発展を阻止しているなんて…とても危険な状態なの!」
「そうね…でもお母様、私は何から始めればいいの?」
「あなたのやるべきことはただ一つ!そういった組織を特定して解決に導くことよ。大丈夫よハンナ、あなたならできるわ!」
だがその時、どこか遠くで時計の秒針が鳴っているのに気がついた。
「そういえばお母様、今って何時なの?」
「…え?この世界には時間なんてないわよ?」
「…じゃあ時計もないってことよね?」
「えぇ、もちろんそうだけど…」
しかし不思議なことに、的確に時間を数えるリズムはどんどん大きくなっているのだ。
「何、この音…」
リリアーナの見えている世界はどんどん歪み、大きくなったり小さくなったりを繰り返ししている。
やがて視界はマーブル模様を描き、ブラックアウトした。
それに、マーカスとクラリスも昔からの魔法界らしい国を守りたかったみたいなんだけど…すれ違いが起きてしまったのよ。」
「…すれ違い?」
「えぇ。エドモンドは何者かに嘘の情報を吹き込まれたの。“マーカスの本当の望みは、モンフォワーシュを人間界化して金儲けすることだ”とか。最初はエドモンドもそんな話信じなかったんだけれど…徐々に洗脳されたのか、マーカスにそのことを問いただしたり辛く当たったりしたの。
それにマーカスが嫌気がさしてきた頃、今度は“近々マーカスが辞職し、人間界から物を仕入れて金儲けをしようと考えている。それがうまく行けばエドモンドは殺されるだろう”なんて囁かれたみたいで…あの時はもう私はおろか、誰の忠告も聞かなくなってしまっていたわ。それでタイミング悪くマーカスが辞職しようとしていたところ、鉢合わせたエドモンドが激昂したらしくて…まぁそれだけ聞くとエドモンドの方が悪いわよね?」
「でも…お父様を洗脳した人って誰なの?」
「あれから何度も聞いたんだけど…よく分からないってシラを切るわ。でもエドモンドはそんなに城から出られないはずだから、きっと城に出入りできる誰かのはずよ。それにね、昔から王家や貴族を陥れる厄介な存在がいるわ。それって何のことか分かる?」
「もしかして、新聞とか…」
「そう、マスコミよ。すぐ私達の揚げ足をとるようなことして、有る事無い事全て世間にばら撒くわ。それで不可解だったのが、マーカスに関して私達も知らないような情報が見出しに出ていたの。最初は私も記者が勝手にでっち上げたような記事だと思ったんだけど、エドモンドはそれを事実だと証明しようとするし、当のマーカスは真っ青な顔をしているもんだから明らかに本当のことだと分かったわ。でもエドモンドだけが知ってたなんて彼が漏洩させたとしか思えないし、マーカスの好感度を下げる記事の出た時期もタイミングが良すぎたの。つまり、私の考えなんだけど…」
「誰かがマーカスを辞めさせるよう誘導した…ってこと?」
「そうなの!おかしいと思うじゃない?きっとエドモンドを洗脳した人物は、少しずつエドモンドからマーカスの情報を拾い集めて悪い事だけを記事にし、マーカスが城に居づらい環境を作り出したんだわ。」
「つまり、洗脳した人と新聞記者はグルだった…?」
「同一人物だったって事も考えられるわ。まぁどっちにしたって、何者かが裏で糸を引いていたとしか思えないわね。」
「ところで…どうしてお母様達はそんなに人間界化を恐れていたの?人間界の技術が入ってくれば便利になるし、魔法界らしい国と共存させてしまった方が良かったんじゃない?」
ヴィヴィアンはリリアーナの言葉に視線を落とし、首を横に振った。
「…違うわ、ハンナ。共存させる事なんて無理なのよ…誰しも、どんなことにも得意不得意はあるわ。それは魔法に関しても同じ。魔法を使うのが苦手な人だっているし、生まれつき魔力が強い人だっている。あるいは1つの分野にだけ特化している人もいるわ。その個々のバラつきによって成功する人もいるし、残念ながら苦労する人も出てきてしまう。そのバラつきを埋めるのはもちろん人間界の便利な技術よね?
ここまではいいの。でも考えてみて。多かれ少なかれ魔法は誰にだって使えるわ。でも人間界からやって来た道具や技術は?どんな人が使える?」
「えっと…お金持ち、とか?」
「そう。逆に言えばお金がある人しか使えないのよ。」
「つまり、一部の人が金儲けするために…」
「そう。そして魔法でできてしまうことも道具を使ってしまうことによって、魔法の進化を止めてしまっているの。むしろ近年のモンフォワーシュは退化しているくらいだわ。そんなことになったらどんどん貧富の差は広がっていくばかり…魔法ならいくらでも進化できるけれど、人間の作り出すものには限界があるわ。もちろん人間界の文化や芸術は素晴らしいし真似したいものばかりよ…そうね、魔法界はそういう面が乏しいから。
とにかく、そうやって金儲けしたい一部の人達が発展を阻止しているなんて…とても危険な状態なの!」
「そうね…でもお母様、私は何から始めればいいの?」
「あなたのやるべきことはただ一つ!そういった組織を特定して解決に導くことよ。大丈夫よハンナ、あなたならできるわ!」
だがその時、どこか遠くで時計の秒針が鳴っているのに気がついた。
「そういえばお母様、今って何時なの?」
「…え?この世界には時間なんてないわよ?」
「…じゃあ時計もないってことよね?」
「えぇ、もちろんそうだけど…」
しかし不思議なことに、的確に時間を数えるリズムはどんどん大きくなっているのだ。
「何、この音…」
リリアーナの見えている世界はどんどん歪み、大きくなったり小さくなったりを繰り返ししている。
やがて視界はマーブル模様を描き、ブラックアウトした。