Time Paradox
話をしていると、ちょうど黒服が赤ワインとグラスを二つ運び、音を立ててボトルを開けた。

「ルイスさん、いつもありがとうございます。」

黒服が言うと、レイラも続いて挨拶をする。

「今夜もご馳走になりますわ。」


黒服が立ち去ると、レイラはその頼りない腕には重すぎるボトルを持ち上げ、並んだ二つのグラスに真紅の液体を注いだ。

そしてレイラはルイスより下になるようにグラスを合わせた。

二人は大体同じくらいのタイミングでグラスを傾け、約一口分、ワインを減らした。


「…それで?ルイスさんったら私に気付いてたんだもの、声を掛けてくださっても良かったのに!どこにいらしたの?」

レイラは一言目に不服そうな言葉を口にしてみると、ルイスは薄ら笑いを浮かべて答えた。

「君と同じでね、色んな人達と話していたよ。大臣達をはじめとして…各家の貴族達との交流もあるからね。ベルモンド家の侵入者の話はもちろん、密かに王子と王妃についての憶測も話し合っていたんだよ。そういえば名の通ったデルーロ家の人もここに来ているみたいだが…何かそれについて話していたかい?」

ルイスは噂好きだが、所詮は噂好きのレベルである。
ほとんどはもはや出回り尽くしたような、雑談程度の情報にしかならないのだ。

その割に、レイラの店に通う客の噂やプライバシーに関する情報を聞き出そうとしてくるのでタチが悪い。

「…そうねぇ、デルーロ家の御兄弟のお父様ならよく来られるみたいだけど…たまにママのヘルプで着くぐらいだからあんまり分からないわ。」

その度に、こうやってレイラは無難にはぐらかすのである。

しかしこの使えそうにないルイスだが、ごく稀に酔いが回ってくると、役に立ちそうな情報を吐き出す事がある。

レイラは今日、金か情報かのどちらを多く絞り出すかを考えていると、ルイスは意外にも早く口を滑らせはじめた。

「そう言えば…城の隠し通路があるって話、聞いた事があるかい?」

「隠し通路…噂には聞いた事があるけど、そんなの本当にあるの?」

ルイスは自慢気に口を歪ませた。
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