Time Paradox
「兄さん、ただでさえ落ち込んでるイザベラに追い討ちかけるなよ。」

「事実を言ったまでだ。あんな男、やめておけ。」

「落ち込んでいる所、口を挟んで申し訳ないのですが…ニコラス様は何かそれらしいことを漏らしたりはしていなかったのですか?
あの雰囲気だと失言もかなり多そうだと思ったのですが。」

イザベラは今にも泣き出しそうな顔を上げると、少し考えてからそういえば、と言葉を繋げた。

「こんなに堂々と出かけたりなんてしたら私達も撮られるんじゃないかって言ったら彼…“大丈夫、イザベラは俺が守るよ”って…俺が守るよ…って!言ってくれたわ!素敵!」

またキラキラと顔を輝かせたイザベラを無視し、その場にいた人間は皆、ニコラスのどこか意味深な言葉に確信を持ち始めていた。

「つまり、デルーロ家の息子だから撮られる心配はない、とも受け取れるな。」

「そういえば!舞踏会の夜、ルクレツィア・チューリッヒとランス・デルーロは結構な時間会場に居なかったはず。あの二人もなんだか怪しい気がしますね。」

「噂だけどルクレツィアさんはスパイなんだろ?俺はあの女にかなり情報を絞られたが。」

「ということはデルーロ家、チューリッヒ家はやはり繋がっているようだな。昔からそんな噂はあったがな。」

モーリスは白髪混じりの顎ひげを撫でながら呟いた。
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