Time Paradox
「やはりここにいたか。」
その声はリリアーナの知っているアドルフのものとは思えない程に冷たかった。
「アドルフ、ごめんなさい…耐えられなくてつい…」
だがアドルフはリリアーナの方を見ることもせず、光のないグレーの目をジャックに向けた。
「ジャック・カルロー、こいつを牢獄へ。」
リリアーナ含め、その場にいたアーノルド家の人間は皆、息を飲んだ。
「匿っていたアーノルド家にも罪はあるが、こいつらを大人しく引き渡すことを条件に見逃してやる。次はない。」
「ちょっと待ってアドルフ!なんでそんな…」
「ハンナ・ケインズ、お前は自分がした事の大きさにも気付けないのか?こうなったのは勝手にスクープを撮られ、勝手に逃げ出した自分自身が招いた結果だ。」
アドルフはリリアーナを真っ直ぐに見据えてはいたが、その視線はどこか違うものを捉えているようだった。
だが、リリアーナは何故かそのアドルフに見覚えがあったはずだ。
どこか深い、あるいは遠いところに置いてきた憎しみや呪いが燃えている感覚。
リリアーナははっとした。
今はまだ思い出せることはないが、これが本来のアドルフの姿だと確信した。
その途端リリアーナの中にあった微かな恐怖は燃える感情に飲み込まれ、塵となった。
「…アドルフ、全ての原因はあなたね。そんな気がする。私はもっとずっと昔からあなたを知ってる…ずっと許せなかったわ。」
リリアーナの瞳は水色から少し深い青色になり、腰まである髪も青く燃えていた。
アドルフの方へと一歩ずつ歩みを進める。
だがその時、リリアーナは足に力が入らずに崩れ落ち、近くにいた兵士達に抱えられてそのまま連行された。
アドルフにまた動きを封じられたのだ。