Time Paradox
呪い
甘い罠
リリアーナが動けるようになったのは次の日の朝だった。
理由も分からない苛立ちのせいで一睡もできず、その上アドルフの魔法で動けずにいたのだ。
アドルフが部屋に入ってくるなり片手で魔法を解く。
いつもの笑みを浮かべて近づいて来る彼の様子にリリアーナは混乱した。
「ハンナ様、お目覚めですね?」
リリアーナはしばらく口を開けたまま言葉が出なかった。
「ハンナ様がいない間も挙式の準備は進められていましたが、無事戻って来ていただけたので、予定通り一週間後に式を行うことができますよ。」
まだリリアーナは言葉が出なかった。
この男、数日間の騒動の事などなかったかのような口ぶりだ。
昨日のアドルフの態度、やはりあれは夢だったのだろうか。
「式が予定通り…そう、なのね?」
「えぇ、ジル・ブランに頼んでおいた指輪も完成しているそうですから、今日の午前中はその確認になるでしょうね。」
既にリリアーナの記憶はいつも通りのアドルフで埋まってしまい、昨日彼にどんな気持ちを抱いてしまったのかということすらも思い出せなくなっていた。
「どうして私は昨日…私、アドルフのことすごく…」
だがアドルフは首を傾げた。
「…昨日、ですか?」
「すごくあなたに腹が立って…ごめんなさい、よく覚えてないのだけれど、悪いことを言ってしまったかもしれない…。」
「夢を見ていたのでしょうか?私が迎えに行った時のハンナ様はにこやかで嬉しそうで…」
そこまで言うとアドルフはリリアーナの右の頬を包み込み、目を見て続けた。
「拗ねて逃げ出しただけで、“アドルフなら来てくれると思った”と…」
そこで言葉を切り、リリアーナの顎を持ち上げ優しく上を向かせる。
「僕は幸せ者ですね、婚約者にこんなに愛されているのですから。」
リリアーナはアドルフの優しいグレーの瞳に溶けてしまいそうな気持ちになった。
さっきまで感じていた微かな違和感の苦味は、作りたてのお菓子のような甘さで包み込まれてなくなっていく。
「アドルフ…私も幸せ。結婚式、早められないの?」
リリアーナがアドルフの腰に手を回しながら聞くと、彼はそれに応えるように優しくキスをした。
「そうですね、早めてもらえるように僕からも頼んでおきますね。」
麻薬のような甘い余韻は、リリアーナが夢の中に落ちるまで続いた。
理由も分からない苛立ちのせいで一睡もできず、その上アドルフの魔法で動けずにいたのだ。
アドルフが部屋に入ってくるなり片手で魔法を解く。
いつもの笑みを浮かべて近づいて来る彼の様子にリリアーナは混乱した。
「ハンナ様、お目覚めですね?」
リリアーナはしばらく口を開けたまま言葉が出なかった。
「ハンナ様がいない間も挙式の準備は進められていましたが、無事戻って来ていただけたので、予定通り一週間後に式を行うことができますよ。」
まだリリアーナは言葉が出なかった。
この男、数日間の騒動の事などなかったかのような口ぶりだ。
昨日のアドルフの態度、やはりあれは夢だったのだろうか。
「式が予定通り…そう、なのね?」
「えぇ、ジル・ブランに頼んでおいた指輪も完成しているそうですから、今日の午前中はその確認になるでしょうね。」
既にリリアーナの記憶はいつも通りのアドルフで埋まってしまい、昨日彼にどんな気持ちを抱いてしまったのかということすらも思い出せなくなっていた。
「どうして私は昨日…私、アドルフのことすごく…」
だがアドルフは首を傾げた。
「…昨日、ですか?」
「すごくあなたに腹が立って…ごめんなさい、よく覚えてないのだけれど、悪いことを言ってしまったかもしれない…。」
「夢を見ていたのでしょうか?私が迎えに行った時のハンナ様はにこやかで嬉しそうで…」
そこまで言うとアドルフはリリアーナの右の頬を包み込み、目を見て続けた。
「拗ねて逃げ出しただけで、“アドルフなら来てくれると思った”と…」
そこで言葉を切り、リリアーナの顎を持ち上げ優しく上を向かせる。
「僕は幸せ者ですね、婚約者にこんなに愛されているのですから。」
リリアーナはアドルフの優しいグレーの瞳に溶けてしまいそうな気持ちになった。
さっきまで感じていた微かな違和感の苦味は、作りたてのお菓子のような甘さで包み込まれてなくなっていく。
「アドルフ…私も幸せ。結婚式、早められないの?」
リリアーナがアドルフの腰に手を回しながら聞くと、彼はそれに応えるように優しくキスをした。
「そうですね、早めてもらえるように僕からも頼んでおきますね。」
麻薬のような甘い余韻は、リリアーナが夢の中に落ちるまで続いた。