Time Paradox
記憶の輝石
昼過ぎ、リリアーナはまだ指輪に輝くトパーズを見つめていた。
明日の式の段取りは最終確認を終え、あとは本番を待つのみ。
だがふと、微かな風に乗りピアノの音が聞こえてきた。
とても不穏な、この街全てを塞ぎ込むような嫌な旋律。
リリアーナは立ち上がると、その伴奏のない音楽の出所を確かめに部屋を出た。
ピアノのある部屋はパーティーが行われるホール、宮廷音楽団達の練習室、2人がよく使うレッスン室などと限られているはずだ。
廊下を歩いていると、微かなものだった胸騒ぎがどんどん大きくなっていく。
リリアーナはそっとレッスン室のドアを開けると、アドルフが静かにピアノと向き合っているところだった。
楽譜はないが、間違いを恐れる事もなくただ淡々と右手で旋律を奏でている。
「アドルフ…?」
リリアーナが恐る恐る声を掛けると、アドルフは我に返ったかのように振り向いた。
「ハンナ様!どうかされましたか?」
そのグレーの瞳は、動揺など一つも見て取れないようだ。
「…いや、聞こえてきたから気になって。アドルフが自分からピアノ弾いてるのなんて初めてみた気がするわ。」
アドルフは少し驚いた顔をしたような気がしたが、またいつもの表情に戻って立ち上がった。
「明日のお披露目のパーティーでピアノを演奏できたらと思ったんです。本当はあまり得意ではありませんが。」
最後の方は自虐気味に笑いながら言うと、アドルフはこちらに歩みを進めてきた。
「…そうよね、ピアノ苦手だったのよね…何かアドルフ、本当はすごく上手だったんじゃないのかなって勝手に思ってたわ。何でかしら?」
その言葉にアドルフの右の眉が僅かに上がったような気がした。
「ピアノのレッスンをしていたのも、もう何年も前の話でしたから。記憶が美化されたんですね。」
アドルフは薄い唇を持ち上げて笑った。
「…そっか。きっと私が人間界に行ってた間に記憶がおかしくなってたんだわ。思い違いね。明日、上手く演奏できるといいね。」
リリアーナはそれだけ言うと、アドルフのいるレッスン室を後にした。
明日の式の段取りは最終確認を終え、あとは本番を待つのみ。
だがふと、微かな風に乗りピアノの音が聞こえてきた。
とても不穏な、この街全てを塞ぎ込むような嫌な旋律。
リリアーナは立ち上がると、その伴奏のない音楽の出所を確かめに部屋を出た。
ピアノのある部屋はパーティーが行われるホール、宮廷音楽団達の練習室、2人がよく使うレッスン室などと限られているはずだ。
廊下を歩いていると、微かなものだった胸騒ぎがどんどん大きくなっていく。
リリアーナはそっとレッスン室のドアを開けると、アドルフが静かにピアノと向き合っているところだった。
楽譜はないが、間違いを恐れる事もなくただ淡々と右手で旋律を奏でている。
「アドルフ…?」
リリアーナが恐る恐る声を掛けると、アドルフは我に返ったかのように振り向いた。
「ハンナ様!どうかされましたか?」
そのグレーの瞳は、動揺など一つも見て取れないようだ。
「…いや、聞こえてきたから気になって。アドルフが自分からピアノ弾いてるのなんて初めてみた気がするわ。」
アドルフは少し驚いた顔をしたような気がしたが、またいつもの表情に戻って立ち上がった。
「明日のお披露目のパーティーでピアノを演奏できたらと思ったんです。本当はあまり得意ではありませんが。」
最後の方は自虐気味に笑いながら言うと、アドルフはこちらに歩みを進めてきた。
「…そうよね、ピアノ苦手だったのよね…何かアドルフ、本当はすごく上手だったんじゃないのかなって勝手に思ってたわ。何でかしら?」
その言葉にアドルフの右の眉が僅かに上がったような気がした。
「ピアノのレッスンをしていたのも、もう何年も前の話でしたから。記憶が美化されたんですね。」
アドルフは薄い唇を持ち上げて笑った。
「…そっか。きっと私が人間界に行ってた間に記憶がおかしくなってたんだわ。思い違いね。明日、上手く演奏できるといいね。」
リリアーナはそれだけ言うと、アドルフのいるレッスン室を後にした。