Time Paradox
ジャックは寝ているリリアーナを起こさぬようにそっとベッドまで運ぶと、毛布を掛けてやった。


この街では珍しいブロンドの髪を指ですくい、ハラハラと落ちていくのを見つめていた。


ジャックはそれを無意識に何度か繰り返していると、リリアーナの水色の瞳と視線がぶつかった。

ジャックは慌てて目をそらし、リリアーナに声を掛けてごまかした。

「起きてたのか?」

その問いかけに、リリアーナは無言で頷いた。

目線は下を向いていて、何かを考えているようだった。


「…リリアーナ?」


ジャックが覗き込むと、リリアーナは間を置いて静かに口を開いた。


「…本当に私、あの城で働いても大丈夫なの?」

ジャックはリリアーナの質問にギクリとした。

「なんで…そんな事聞くんだよ?」


「どうしてよりによって私なの?私以外にも人間界の…ルッケルンガルの孤児院にもいたでしょ?それに、どうしてわざわざモンフォワーシュ駅から終点のルッケルンガルから採用しようとしたの?…あんなに遠いのに。よく考えてみたらおかしいよね?」

「…なんでそんな事知ってるんだよ…」


ジャックは明らかに動揺していた。

そんなジャックを、リリアーナは悲しそうに見つめていた。


彼の態度は、”リリアーナを金儲けに利用しようとしているのは俺たちだ”と言っているようなものだった。

つまり、二人は現国王のマーカス・ナトリーに指名手配中のリリアーナを差し出し、懸賞金を貰おうとしていたのだ。


リリアーナは何か言いたげだったが、泣きそうな顔で部屋を飛び出した。


「…どういうことだよ…?」


ジャックは誰もいなくなった部屋で、一人呟いた。
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