Time Paradox
ガッシャーンと派手な音を立てて割れたグラスに、会場の注目が集まる。

リリアーナは赤くなった顔で「ごめんなさい」とだけ言い、破片を集めるためにしゃがもうとすると、男に手を掴まれて止められた。

男は手を挙げると、お手伝いさんに後始末をさせた。

「なぜすぐに来なかった?割れた音で気付くはずだろう?」

男が責め立てると、お手伝いさんはただ慌てて「すみません」と謝るだけだった。

その様子に腹が立ったリリアーナは、男を睨んでこう言った。

「ねぇ、どうしてそんな言い方をするの?お手伝いさん、ごめんなさいね。」

そう言ってリリアーナは、お手伝いさんに申し訳なさそうにお礼を言った。

まだ若い彼女はリリアーナの優しさに触れて嬉しかったのか、泣きそうな顔で頭を下げて会場を出て行った。


しばらくして騒ぎが収まり、人々はまた踊り始めた。


「…さっきはごめんね、ありがとう。」

リリアーナは小さな声で男にそう言うと、会場を後にした。
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