Time Paradox
「リリアーナ様、どちらへ?」

リリアーナが屋敷の庭へ出ようとした所を、例の営業スマイルの男に止められた。

「屋敷の外は危険です。中へお入りください。」

男の目は笑っていなかった。

「…庭に出ようとしただけなの。温室の中には何があるのかなって…」

リリアーナは小さな声で答えると、男はリリアーナの手を引いて歩いた。

リリアーナはふと、気になることを思い出した。

「このお屋敷は立派だけど、誰の家なの?」

男は立ち止まり、間を置いてから答えた。



「私の父、モーリス・アーノルドの家です。」

「それじゃああなたの名前は?」

リリアーナが尋ねると、男は少し驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの作り笑顔に戻って答えた。

「ルーカス・アーノルドです。以後、お見知り置きを。」

「ルーカスさんね。今さらだけどよろしくお願いします。モーリスさんも今夜のパーティーに参加していたのよね?」

「いえ、父は忙しいようなので。」

ルーカスは顔を正面に戻すと、さらっとそう言った。

モーリスが主犯格であると睨んでいるリリアーナだが、顔を見せない事に違和感を感じていた。

リリアーナを連れ去る時にも息子であるルーカスを使ったのである。

一体黒幕のモーリスはどんな人物なのか。

姿の見えない相手に、リリアーナは恐ろしさを覚えた。
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