Time Paradox
リリアーナの試みた脱出はあえなく失敗に終わり、信用ならないリリアーナはルーカスが部屋まで送り届けた。


「リリアーナ様の歓迎パーティーは明日もございますのでお忘れなく。」

そう言ってルーカスは戻って行った。


部屋の扉を閉めたリリアーナは、緊張が解けたのか大きなため息をついた。

明日も歓迎パーティーという名の地獄が待っている。

会場の人々の好奇の目。
ドロドロとした人間関係。

パーティーとはこんなに恐ろしいものだっただろうか。

リリアーナが城に住んでいた頃には事ある毎にパーティーが開かれ、その度に心を踊らせていた。


「…アドルフ、元気かしら…?」

リリアーナは独り言で、ある人物の名前を口にした。


”アドルフ・ナトリー”


彼はマーカス・ナトリーの息子で、リリアーナより二つ年上の男である。

ハンナ・ケインズとして城に住んでいた頃は仲がよく、国王の側近の息子と国王の娘という身分の違いもあったが、幼馴染のような存在だった。


「ハンナ様、踊っていただけますか?」


パーティーでは必ず一緒に踊っていた。

ほんの2年の差だが大人な対応に見えるアドルフに、いつしかリリアーナは心惹かれていた。


だがあの日を境に、2人は他人となってしまった。

現在マーカスが王政を握っているため、アドルフは王子という身分である。

マーカスとリリアーナの父は仲が良く、互いに信頼し合っていたはずだった。

マーカスはリリアーナの事も自分の娘のように可愛がっていてくれた人である。

なぜこんな事になってしまったのか、リリアーナには全く分からなかった。
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