Time Paradox

リリアーナはなぜか会場から出て２階へと上がっていく。

アドルフは酔ってふらふらなリリアーナを支えるので精一杯だった。

リリアーナは奥の部屋まで行くと、適当にノックをして返事も待たずにドアを開けた。

すると、そこには白髪の男性がベッドに横たわっていた。

当然ながら男性は驚いた顔をしていたが、リリアーナの方は分かっていたとでも言うように椅子に座った。

「あなたがモーリスさんね！」

リリアーナはろれつの回らない口調でヘラヘラと言った。

「…もしや…」

男性は驚いて掠れた声で言う。

「私は”リリアーナ”こと”ハンナ・ケインズ”よ。」

「…ハンナ・ケインズ…」

「そんな事よりモーリスさん、私はデリックが厄病神だなんて思わないわ。」

その言葉にモーリスは目を見開いた。

「…どういう意味だ？」

「デリックが言ってたの。」


リリアーナがそう言うと、モーリスは目を伏せ、少し間を置いてから答えた。


「私も決して厄病神などと思っているわけではない。
デリックが手を尽くしてくれたにも関わらず、もしあの時もう少し力加減が出来ていたら、と責めてしまう自分がいた。
…だが私はもう少しで妻の所へ行くことができる。もういいんだ。」

モーリスは悲しそうな顔でそう言った。

「…奥さんと同じ所に行くのはいいけど、このままにして自分だけ逝っちゃうなんて無責任だと思うわ。あなたがもつれを直さなきゃ、この家はきっと永遠にこのままよ！」

酔っていたからか、リリアーナはピシャリと言った。
そして優しい口調になって言う。

「…だってこの家、すれ違いが生まれてこんな風になってしまったんでしょう？」

リリアーナがそう言うと、なにやらドアが開く音が聞こえた。

そちらに目を向けると、そこにはびっくりした表情のルーカスが立っていた。

「リリアーナ様！舞踏会がじきに終了いたします！早急にお戻りください！」

ルーカスがそう早口でまくし立てると、反対にモーリスが穏やかな口調で言った。

「…ルーカス、今まで本当に悪い事をした…。」

焦ってリリアーナに苛立ちの視線を送っていたルーカスだが、今度はモーリスに驚いた顔を向けた。