Time Paradox
王家とアーノルド家
「…父さん?」
ドアの入り口にはイザベラの顔もあった。
モーリスはイザベラにも手招きをした。
「…イザベラ、お前にもだな。私はイザベラとアドルフ王子が結婚するように仕向けた。なぜだか分かるな?」
イザベラは突然の問いかけに戸惑いながらも、当然の事のように答える。
「…私が妃になれば、お父様もお兄様方も地位が上がるから、でしょう?」
「あぁ、そうだ。だがもう一つ大事な事がある。このアーノルド家は代々、貿易商で繁栄してきた。
だが今、マーカス国王によって貿易が制限されている。となれば、このアーノルド家の将来は見れたもんじゃないだろう。」
ここにいた者はみな、悲しそうな顔で頷くばかりだった。
「私はもう何年生きられるか分からないというところだが、お前たちはこの廃れたアーノルド家を背負っていかなければならない。」
関係のないリリアーナだが、今の言葉にはっとした。
「それじゃあモーリスさんは、ルーカスさんやイザベラさん、デリックのために…」
モーリスは小さく頷いた。
「それからデリック、お前は私を恨んでいるだろうが、私はお前に謝りたい。」
いつからいたのか、デリックがドアの所に立っていた。
「…あの日からずっと、お前はこの家を嫌っていたな。こう言っても言い訳に聞こえるだろうが、あの時私は妻が死んだショックでいっぱいいっぱいだったんだ。手を尽くしてくれたお前に辛く当たった事を、今でも後悔しているよ…お前は”厄病神”でもなんでもない、私の息子だ。」
「…そんな、死に際みたいな事言うなよ…」
デリックは俯きながら、やっとの事で絞り出したような声で言った。
ルーカスはデリックの方へ歩みを進めると、言った。
「…僕は幼い頃から、強い魔力と魔法の才能を持つ兄さんに劣等感を感じていた。そしてこれといった取り柄もない僕は、あの日から父さんの味方に付いた。よく出来た息子としての自分を守るために。…でもどうだろう?
兄さんには兄さんの苦しみがあった。」
デリックは唇を強く結びながら、下を向いて震えている。
「…そうだな。でもルーカス、お前もお前なりに苦しんでたんだろ?」
デリックはそう言うと、下を向きながら手を差し出す。
ルーカスはその手を無視し、いきなり長身のデリックに抱きついた。