Time Paradox
城

ハンナ・ケインズ

「失礼いたします！」

先頭の武装兵はそう言って深くお辞儀をし、皆後に続いた。

中に入るとすぐに立派な椅子に腰掛け、大きな机に向かうマーカスが目に入った。

アドルフよりも暗いグレーの瞳に白髪混じりの黒髪で、セドリックよりも歳は上のようだ。


「よくぞ来てくださった。ハンナ・ケインズ様。」

マーカスはゆっくりと、嫌味をたっぷり含ませて言った。

リリアーナは何も言わず、この男の行動を注意深く観察した。

「…それにしてもそっくりだ。その似合わないグリーンのコンタクトを取ればもっとよく似ているだろうな。」


すると何を思ったか、リリアーナはあまり自由の効かない両手でコンタクトを外した。

そしてその水色の瞳でマーカスを見据えると、やけに冷静な声で尋ねた。


「どうしてあなたは私達一族を殺したの？あの日まではずっと平穏だった。あなたが私達を殺そうとしてたなんて夢にも思わなかったのに。」


怨念の相手であるマーカスを前にした時の感情は、憎悪でも殺意でもなく、ただ純粋な疑問だった。


「お父様はなかなか人を信じられない人だったわ。そんなお父様を一番に理解していたのはあなただったのに…」

マーカスはくだらないとでも言うように鼻を鳴らすと、脚を組んだ。

「なぜだと思う？恐らくお前は、私がお前の父親を裏切ったとでも考えるだろうが…裏切られたのは私の方だ。自分の親が必ずしも善人だと思うなよ。」

マーカスはそう言って、皆部屋から出て行くよう促した。

武装兵はまた深々と頭を下げ、一行は部屋を後にした。
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