Time Paradox

次の日の朝、リリアーナは侍女の声によって目を覚ました。


「おはようございます、ハンナ様！」

その声はあの頃を思い出させるものだった。

「…ん、おはよう、アビー…ん？アビーなの⁈」

リリアーナは飛び起きると、そこには昔城でハンナの侍女をしていたアビー・オレットが微笑んでいる。

「ハンナ様、覚えていてくださって嬉しいです！」

「覚えてるわよ！ずっとお世話になってたもの！」

そう言ってリリアーナはアビーに抱きついた。

「ハンナ様が殺されなくて本当によかったです！」

「殺されるわけないでしょっ！」


２人はつかの間の再会を喜ぶと、アビーはリリアーナの着替えを手助けした。
とは言っても、髪やメイクを手伝ってもらう程度だったが。

モンフォワーシュの王宮では普段着用のドレスと盛装のドレスは分かれていて、普段着用のドレスはくるぶしまでのワンピースとなっている。

今日は城で過ごすだけなので、普段着の簡素なワンピースを身につけた。
色は淡いラベンダーで、刺繍が施されている。

「素敵なドレスだわ！」

そう言いながら、リリアーナはスカートの裾を掴んではしゃいでいた。

「お似合いです、ハンナ様！この部屋は長い事使われていなかったので、ここにあるクローゼットの中身も変わっていませんよ。」

「そうなの？流行ってあまり変化しないものなのね…」


実際、モンフォワーシュのファッション事情は何十年も変わらないのだ。

盛装のドレスも、普段のワンピースも。


「人間界ではどうしてあんなに目まぐるしく変化があるのかしら…？」

「…ハンナ様は人間界に亡命していらっしゃいましたからね。私は行った事がないんです。」

リリアーナは”亡命”と言う言葉に、大学生の言っていた事を思い出した。


"国のために何もしてこなったお飾りだけのお姫様に何ができるってんだよ？"



「亡命って言うのかしら…？私は逃げたことになっているの？」

リリアーナの言葉に、アビーは慌てて訂正を加えた。

「す、すみません！そういうつもりじゃ…」

「いいの…本当の事だから。」

リリアーナがそう言って遮ると、アビーは何も言えなくなってしまった。