Time Paradox
沈黙を破る救世主として扉を叩いたのは、朝食を運んできてくれたメイドだった。

「おはようございます、ハンナ様。朝食をお持ちしました。」

「ありがとうございます。」

モンフォワーシュの王宮では昔から、朝食は個々の部屋で食べる事になっているのである。

「それでは私たちはこれで失礼いたします。」

「ありがとう。」

朝食をテーブルに置くと、アビーとメイドは部屋を出る。

「…いただきます。」

リリアーナは昔から、この寂しい朝食が好きになれなかった。


リリアーナは早急に食べ終え、部屋を出た。


だが、ジャックは今日で城から帰ってしまう事を思い出した。

思い切って隣の部屋をノックすると、荷造りをしているジャックが顔を出した。


「おう、おはよう!リリアーナ。」

「おはよう、ジャック。…今日家に帰るのね。」

今までと同じようにジャックに会えなくなるのだと思うと、やはり寂しかった。

「あぁ。今日絵本を取りに行って、明日には渡せるようにするから心配するな。」

「ありがとう、ジャック!」

ジャックは以前のように、頼もしそうにグリーンの瞳を輝かせて頷いた。

「王子と婚約したんだろ?おめでとう!」

ジャックはそう言ってリリアーナの肩に手を置いた。

「えっ…」

「…好きだったんだろ?王子の事。応援してるからな!」

リリアーナは何かが違うと思った。

ジャックにそう言われると、どうにも素直に喜べないのだ。


「…違う…」

俯いているリリアーナによって発せられた言葉は、誰にも届かないまま床へと落ちて行った。

「えっ?」

よく聞こえなかったジャックは聞き返すが、リリアーナの様子でどういう気持ちなのかは大体予想がついてしまう。

「…うれしくないのか?」


ジャックの言葉に、リリアーナははっとして顔を上げる。

“嬉しくない” “嫌だ” などと思ってはいけないのだ。

「いや、嬉しいの!…その、何ていうか…ただ気持ちの整理がついてないだけで…」

「…いきなりの事だったからな。無理もないだろうけど。」

ジャックは困ったように自分の髪を触ると、また荷物をまとめ始めた。
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