Time Paradox
「…ハンナ様…」
背後から聞こえたのは、何かを躊躇っているようなアドルフの声だった。
リリアーナは振り返り、アドルフを見た。
「アドルフ?」
考えをまとめていたのだろう、アドルフは間を置いて話し始めた。
「…ハンナ様、昨夜は大変失礼いたしました。」
そう言って頭を下げたアドルフに、リリアーナはぎょっとした。
「…ど、どうしたの、アドルフ?」
「…僕はただ、ハンナ様が本当の事を言っているとは思えなかったんです。失礼を承知で言いますが、ハンナ様はあの日から会えなかった事を言い訳にしているだけなのではないでしょうか?
仮にあの頃は僕の事を好きでいてくれたとしても、今はもうとっくに冷めてしまっているのでは?」
核心に触れられた、とリリアーナは思った。
返す言葉がなく、ただ時間が止まったような美しい庭園に立ち尽くすばかりだった。
「…正直に言ってください。ハンナ様、あなたには他に想っている方がいますよね?」
アドルフは栗色の髪をなびかせながら、まるで他人事のように言う。
その言葉に、リリアーナは一度振り返って門の外を見る。
本当は薄々気が付いていたのだ。
ハンナ・ケインズだった頃、アドルフにあった恋心。
だがリリアーナ・キュリーとなってから、それと同じ気持ちはアドルフにはなかったことを。
「ごめんなさい、認めたくなかったの。…だって、あの頃求めていたものがやっと手に入ったっていうのに、今となっては違うものを欲しがってるなんて!
アドルフを傷付けたくなかったから嘘をついたの、なんて言えたらよかったんだけどね…私はそこまでいい人じゃなかったんだわ。結局嘘をついてまで守りたかったのは自分のプライドだったんだわ…」
リリアーナは消え入りそうな声で言うと、アドルフに謝罪の意味を込めた深いお辞儀をした。
アドルフは顔を上げるよう促すと、思いのほか穏やかな顔をしていた。
「…やっと本当の事を話してくれましたね。それでいいんですよ。これで僕もハンナ様に気兼ねなく利用してもらえますね。」
アドルフは爽やかに笑って見せた。
「…えっと、それはどういう…」
「この婚約は今まで通り、形だけで進めていきます。その間に妖精を呼び出し、過去へ戻って未来を変える、というハンナ様の計画にも協力致しますよ。」
アドルフはそう言うと、まるで執事がするように胸に手を当て、姿勢良くお辞儀をした。
「…アドルフ。どうしてそんなこと…?」
「僕はハンナ様より2年も多く生きているんですよ?心に余裕のある大人ですから。」
「…またそんな事言って…」
リリアーナはアドルフの冗談に笑うと、急に真面目な顔になって言った。
「…アドルフ、本当にありがとう。あなたには何度救われたか分からないわ!この恩はどこかで必ず返すわ!」
「期待していますよ。」
アドルフはそう言ってふわりと笑った。
背後から聞こえたのは、何かを躊躇っているようなアドルフの声だった。
リリアーナは振り返り、アドルフを見た。
「アドルフ?」
考えをまとめていたのだろう、アドルフは間を置いて話し始めた。
「…ハンナ様、昨夜は大変失礼いたしました。」
そう言って頭を下げたアドルフに、リリアーナはぎょっとした。
「…ど、どうしたの、アドルフ?」
「…僕はただ、ハンナ様が本当の事を言っているとは思えなかったんです。失礼を承知で言いますが、ハンナ様はあの日から会えなかった事を言い訳にしているだけなのではないでしょうか?
仮にあの頃は僕の事を好きでいてくれたとしても、今はもうとっくに冷めてしまっているのでは?」
核心に触れられた、とリリアーナは思った。
返す言葉がなく、ただ時間が止まったような美しい庭園に立ち尽くすばかりだった。
「…正直に言ってください。ハンナ様、あなたには他に想っている方がいますよね?」
アドルフは栗色の髪をなびかせながら、まるで他人事のように言う。
その言葉に、リリアーナは一度振り返って門の外を見る。
本当は薄々気が付いていたのだ。
ハンナ・ケインズだった頃、アドルフにあった恋心。
だがリリアーナ・キュリーとなってから、それと同じ気持ちはアドルフにはなかったことを。
「ごめんなさい、認めたくなかったの。…だって、あの頃求めていたものがやっと手に入ったっていうのに、今となっては違うものを欲しがってるなんて!
アドルフを傷付けたくなかったから嘘をついたの、なんて言えたらよかったんだけどね…私はそこまでいい人じゃなかったんだわ。結局嘘をついてまで守りたかったのは自分のプライドだったんだわ…」
リリアーナは消え入りそうな声で言うと、アドルフに謝罪の意味を込めた深いお辞儀をした。
アドルフは顔を上げるよう促すと、思いのほか穏やかな顔をしていた。
「…やっと本当の事を話してくれましたね。それでいいんですよ。これで僕もハンナ様に気兼ねなく利用してもらえますね。」
アドルフは爽やかに笑って見せた。
「…えっと、それはどういう…」
「この婚約は今まで通り、形だけで進めていきます。その間に妖精を呼び出し、過去へ戻って未来を変える、というハンナ様の計画にも協力致しますよ。」
アドルフはそう言うと、まるで執事がするように胸に手を当て、姿勢良くお辞儀をした。
「…アドルフ。どうしてそんなこと…?」
「僕はハンナ様より2年も多く生きているんですよ?心に余裕のある大人ですから。」
「…またそんな事言って…」
リリアーナはアドルフの冗談に笑うと、急に真面目な顔になって言った。
「…アドルフ、本当にありがとう。あなたには何度救われたか分からないわ!この恩はどこかで必ず返すわ!」
「期待していますよ。」
アドルフはそう言ってふわりと笑った。