だから、俺の彼女になってよ。



驚いたけれど、すぐにはその顔を見なかった。


……見なくたって、声ですぐにわかる。



ゆっくりと顔を上げると、思った通り。その人は、私が今日ずっと避け続けていた相手。




「悪りぃ、香織。今日は一緒に帰れない」



和のその言葉に、私はとっさに香織を見た。


バカ。何言ってるのよ。それじゃ香織が……。



「あ、そっか……っ。うん。わかったよ」


そう思ったときにはもう遅くて、香織は寂しそうな表情を浮かべて笑った。


その視線は、私の腕を掴んでいる和の手を向いている。



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