鬼部長の素顔


幾つかの扉を通ると
そこが何処なのかがわかった



「誰かのお見舞い?」


「まあ、そんなとこ」


そんなとこ?
私も一緒でいいんだろうか……
なら何か持ってきたらよかったかも


エレベーターに乗り
直斗は6のボタンを押す


慣れている感じ
何度か来たことがあるんだろう


エレベーターが開き、歩き出す
すれ違う看護師さんに会釈し
一つの部屋に入っていった

4人部屋、プライバシーの問題で
昔あっただろう入院者のネームがない


誰のお見舞い?
少し遅れながらも私も部屋へ入る


窓側のベット
カーテンで仕切られているから
誰がいるのかもわからない。



「よう、体調どうなの?」


そう話しかけた直斗


「あら、珍しい」


そう帰ってきたのは女性の声
若くはないけど、おばさんって程
年をとってない声だった


「元気ならいいよ」


直斗が悲しそうに笑う
私は直斗が誰と話してるか分からない
自分から、直斗の元へ行くのを躊躇った
< 332 / 344 >

この作品をシェア

pagetop