鬼部長の素顔



「ごめんな、麻耶」



「本当だよ。お母さんの言う通り、前もってちゃんと言って欲しかった」



そいは言ったけど
これも良かったのかもしれない


「俺さ、物心ついたときから親父はいなかったんだ。俺が小さい頃に離婚したらしいけど、記憶すら無い」

「女手ひとつで育ててくれたんだ、朝から晩まで休まず働いていた。だから寂しいなんて言えなかった。学校の行事も必ず来てくれてさ……」



そう言うと、直斗は話をやめた
いや、話せなくなってしまった



私は何も言わず
直斗の肩を抱きしめて引き寄せた



直斗は何も言わなかったけど…
多分、お母さんは長くはない。


母一人、子一人で生きてきたんだ
誰にも相談できずにいた直斗

誰にも見られたくないだろう
私は抱きしめる腕で直斗の顔を隠した
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