Tearstaind Karanchoe
クイッ
引っ張られたブレザーの裾
続いて、固く固くいつのまにやら、握りしめられていた拳が覆われて。
やんわりとほどかれる。
ハッと我に返って振り向けば、分かったように優しく笑う楓がいて。
「平気だよ」
一言届けられた、楓の言葉。
あふれるように詰め込まれたその裏の優しさ。
瞳の裏に焼き付いた色鮮やかな景色。
思わず熱くなりかけた瞳をかくすようにうつむけば、もう。
ずっと前から伸ばし続けた黒髪が揺れて、涙を誘う。
何度も何度も繰り返された春。
優汰…声にならない掠れたつぶやきは、きっと。
春の風にひろわれて、誰にも届けられることなく、空高く上がって消えてしまえばいい。