季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
渡りに舟は在らず
「朱里…別れてくれないか。」
え…?今なんて言った?
私の手からすり抜けたジャガイモが、ゴロゴロと床を転がった。
私は転がるジャガイモを呆然と目で追った。
ジャガイモは鈍い音をたてて壁にぶつかり、その行く手を遮られて止まる。
「ちょっと待って…どういう事?」
私は散らかった頭の中を整理しようと、壮介に詰め寄った。
「とにかく別れて欲しいんだ。」
「なんでそうなるの?結婚式は1週間後だよ、わかってる?」
「わかってるよ…。だから、その前に別れようって言ってる。」
結婚式を1週間後に控えているのをわかっていて別れようなんて、正気の沙汰じゃない。
その気がないのなら、最初から結婚しようなんて言わなければ良かったんだ。
「いや…どう考えてもおかしいでしょ?もう招待状だって送ったし…。」
私が頭を抱えてそう言うと、壮介はため息をついた。
「それだよ…。」
「え?」
「普通さ…ここは、どうして?って理由聞くとこなんじゃないの?」
「だって…。今になって結婚辞めるなんて、親にも友達にもなんて説明すればいいのよ?」
結婚するにはたいした理由は要らないかも知れないけれど、決まっていた結婚を辞めるとなると、それなりの理由が要るに決まってる。
交際期間の3年間のうちの2年間は同棲していて、このまま壮介と結婚するのが当たり前だと思っていた。
これでやっと結婚できると思ってたのに、29歳にもなって結婚式の直前に相手に捨てられるなんて惨めすぎる。
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