季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
今日は珍しく順平が休みだったので、マスターと二人で閉店作業をした。

2時半過ぎにようやく終わり、マスターと二人で店を出た。

「遅いから送っていくよ。この間もそこで不審者が出たって言うし。」

「そうなんですか?じゃあお願いします。」

マスターは私の歩く速さに合わせて隣を歩いてくれた。

当たり前の事なのかも知れないけれど、いつも順平に置いてきぼりにされているので、マスターの優しさがやけに身に染みる。

ああ、そうか。

今日あんな衝撃的な話を聞いて落ち込んでいるから、余計にそうなのかな?

「順平と同居始めて、もうじき1ヶ月だっけ?うまくやれてる?」

急にキスされたり、押し倒されて襲われそうになったとか、さすがに言えないな。

当たり障りなく返事しておこう。

「お互いに干渉しないという点ではうまくやれてると思いますよ。順平はずっとあんな感じで家でもほとんど会話しません。だけどそれくらいがちょうどいいのかなって。」

「順平は掴み所がないと言うか、人に心を開かないからね。自分をさらけ出すような事もしないし執着もしない。おまけに素直じゃない。」

マスターの言う通りだ。

「確かに素直じゃないですね。いつもえらそうでわがままで基本的に上から目線です。」

私の好きだった順平とは正反対だな。

なのに順平はなぜ“順平”を名乗っているんだろう?

順平のふりをするつもりなら、少しくらい本物の順平に似せればいいのに。



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