季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
二人で歩くのなんて珍しいから、少し寄り道をしないかとマスターが言った。

今日の私はそんなに元気なさそうに見えるのかな?

その気遣いが嬉しくて、じゃあ少しだけ、と答えた。

帰り道から少しだけ外れた道沿いにある公園に足を踏み入れた。

頼りない外灯にぼんやりと照らされ、静まり返った真夜中の公園は、真っ暗な夜の海にぽっかりと浮かぶ、名もない小島のようだ。

今日はマスターがいるから大丈夫だけど、この時間に一人でここに立ち入る勇気はない。

私はマスターと並んでベンチに座り、公園の手前にある自販機でマスターが買ってくれたコーヒーを飲んだ。

あったかいな。

コーヒーのあたたかさまで身に染みる。

「朱里ちゃん、意外と順平の事わかってるんだなぁ。」

マスターがポツリと呟く。

「そうですか?」

「朱里ちゃんには、なんでも話せる相手はいるの?」

私はコーヒーを飲みながら考える。

なんでも話せる相手はいるだろうか?

思えば私はいつも、どんなに親しい友人にも自分の気持ちをすべてさらけ出すような事はなかったと思う。

部分的には話せても、どこかで自分を隠してきた気がする。

「なんでも、って言われると…いないかも。」

「朱里ちゃんはなんでも一人で溜め込むタイプなのかな。今日も何かあっただろ?」

マスター、私を気にかけてくれてるんだ。

心配かけちゃったかな。


今日知ってしまった事を自分の胸の内に秘めておくのは苦しくて、気が付けば私はマスターに壮介と紗耶香の事を打ち明けていた。

マスターは真剣に話を聞いてくれた。

すべてを話し終わると、なんとなく胸のつかえが取れたような気持ちになった。




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