季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「私ってそんなにわかりやすいですか?」

マスターは缶コーヒーをベンチに置いて、少し私の方に体を向けた。

「どうかな。他の人はどうかわからないけど、俺にはわかる。少しでも朱里ちゃんがラクになれるなら、俺には遠慮せずなんでも話してくれていいんだよ。」

大きな手が私の頭を優しく撫でた。

「こんなオジサンじゃイヤかな?」

「オジサン…?」

「朱里ちゃんは29だっけ?俺は40だから、やっぱりオジサンだ。」

「そんな事ないですよ。大人って感じです。」

「物は言い様だね。」

マスターはおかしそうに笑う。

歳は確かに私より11歳も上だけど、ヤンチャな大人の男という感じで、私の中のオジサンのイメージには程遠い。

壮介にも順平にもない優しさとか、色気とか、大人の余裕みたいなものがある。

これが包容力って言うものなのかな。

「なんかあったかくて、ホッとします。」

「ホント?俺はね、朱里ちゃんが心を許せるたった一人の相手になりたい。」

どういう意味かと首をかしげる私を、マスターは愛しそうに見つめている。

「女の子の弱味につけ込む趣味はないんだけどな。バツイチのオジサンじゃ、若い男には敵わないだろ。」

えーっと…それはつまり…。

予想だにしなかった展開に、私の心臓がドキドキとうるさいくらいに音を立てた。

「今こんな事言うの卑怯かも知れないけど…俺と付き合う事、真剣に考えて欲しい。」

どうしよう。

無性に照れ臭くて、マスターの顔がまともに見られない。

私、きっと今、顔真っ赤だ。

「返事は今すぐじゃなくていいよ。朱里ちゃんの気持ちの整理がつくまで待つから。」

「……わかりました…。」




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