季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
告白めいた事を言われた翌日から、マスターは以前にも増して私を気にかけてくれるようになった。

バイトが終わった後、順平が休みの日には寄り道して公園のベンチで一緒にコーヒーを飲みながら話した後、マンションまで送り届けてくれる。

だからと言って返事を急かすわけでもなく、ただ私のどうでもいい話をニコニコしながら聞いてくれたり、時にはマスター自身の話をしてくれたり。

マスターはいつも優しい。

時折私を抱きしめて、頭を撫でてくれる。

マスターに抱きしめられると、少しドキドキするけれど、あたたかくて安心する。

あたたかくて心地がよくて、このままこの優しさに甘えてしまいたいと思ったりもする。

それが恋なのかと言われると、自分でもハッキリとは答えられない。

壮介との事があってから、まだ日も浅い。

恋をするには、もう少し時間が必要かも知れない。



順平はあれから、ほんの少し優しくなった気がする。

いや、確実に優しくなった。

バイトの後はいつも私を置いてさっさと帰っていたのに、一緒に歩いて帰るようになった。

そしてなぜだか、たまに缶コーヒーを買ってくれる。

家にいる時も、前のように強引にキスしたり押し倒したりはしない。

マスターと寄り道をして帰ると、順平は必ず起きていて、何も聞かずに“おかえり”とだけ言う。

以前は“おかえり”なんて言ってくれなかったのに、順平に一体何が起こったんだろう?






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