季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
そんな日が1ヶ月ほど続いたある日。

いつものようにバーにバイトに行って、キッチンでレモンを絞っていると、マスターが私の隣にやって来た。

「朱里ちゃん、明日定休日だけど…暇?」

「ハイ。今のところは特に用もないし…。」

マスターは手に取ったレモンを絞りながら、チラリと私の方を見た。

「デートしない?」

「デート…ですか?」

ポカンとしている私の顔を見て、マスターは少し笑った。

「イヤなら断ってくれていいんだよ?」

「イヤじゃないです。」

「それは…OKという事でいいのかな?」

「ハイ。」

うわぁ、デートなんて久しぶりだ。

「じゃあ、明日の11時に迎えに行くよ。」

「わかりました。」

ニコニコ笑ってカウンターに戻るマスターの背中を見ながら、私は少しドキドキしていた。

いつもはバーからマンションまでの道のりを一緒に歩いて、公園で缶コーヒーを飲む程度だけど…。

デートって…どんな感じ…?

やっぱり大人の雰囲気なのかな?

思えば壮介とは付き合い始めた頃に水族館とか植物園くらいは行ったけど、少し経つとデートらしいデートなんてしなかった。

久しぶりに男の人にデートに誘われてドキドキしてるあたり、やっぱり私も女なんだなぁ。

大丈夫。

私はまだまだ、女である事や男の人に対して希望を捨てていない。








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