季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
バーからの帰り道、ずっと黙って歩いていた順平が自販機の前で立ち止まり、2本買った缶コーヒーのうちの1本を私に差し出した。

「ありがとう。」

私が受け取ると、順平は缶コーヒーのタブを開けて一口飲んだ。

「なぁ…。」

「ん、何?」

「オマエ、マスターと付き合ってんの?」

順平の思わぬ問い掛けに驚いて、私は缶コーヒーを落としそうになった。

「付き合ってはないけど…。」

「けど、何?」

「…何?って言われても…。」

付き合って欲しいって言われたんだー、なんて笑って言えない。

「ふーん…。マスター、もう40だろ?マスターもオマエもストライクゾーン広いんだな。」

「何それ…。だいたい、私が誰と付き合おうがアンタには関係ないでしょ?」

「…そうだな。関係ねぇよ、オマエが誰と何しようが…。俺には全然関係ない。」

「…だったらそれでいいじゃない。」

「…そうだな。」

ほんの少し、順平の横顔が寂しげに見えた。




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