季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
マスターの名前ってなんて言うんだっけ?

確か苗字は梶原さんだったな。

「…梶原さん?」

「できれば名前の方で。」

名前は覚えてません!とは、さすがに言いづらいな…。

「覚えてないかな。早苗って言うんだ。」

「早苗…さん?」

「女みたいな名前だから好きじゃないんだけどね。朱里ちゃんになら、そう呼ばれてもいいかなぁって。むしろそう呼ばれたい。」

「そうなんですか…?じゃあ、今日はマスターじゃなく早苗さんで。」

呼び慣れない名前とか、いつもと違う服装とか…なんとなく照れ臭いような、くすぐったいような。

ちょっとソワソワしたりなんかして。

そうそう、初めてのデートって確かこんな感じだったっけ。

「緊張してる?」

「…少し。」

「普段通りでいいんだよ。」

普段通りでって言われても…既にもうすべてが普段とは違うんですけど!!

「…って言ってる俺も少し緊張してる。」

マスター…いや、早苗さんはハンドルを握りながら軽く笑った。

「緊張…してるんですか?」

「朱里ちゃんと初デートだから。」

顔がカーッと熱くなるのを感じて、思わず両手で頬を覆った。

「そんな事言われると照れ臭いです…。」

「あれ?照れてるの?かわいいなぁ、朱里ちゃんは。」

「かっ…かわいいなんて…。」

ヤバイな…この感じは…。

言われ慣れない甘い言葉に酔わされてしまいそうだ。

私…今日一日もつかな…。



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