季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
こんなに色っぽい目をする人だった?

その視線に捕らえられていると思うと、体の奥がゾクリと疼く。

早苗さんは無意識なのか、何食わぬ顔で料理を口に運んでいる。

その指先や唇がやけに目についてしまう。

何考えてるの、私は…?

「食事が済んだら、動物園行ってみようか。」

「ハイ…。」

きっと今、私の頭の中は、欲情に駆られたメスみたいになっている。

早苗さんがエスパーじゃなくて良かった。





早苗さんじゃないけど、動物園なんて何年ぶりだろう。

前に行ったのはいつだったかな。

園内に入ると、早苗さんはスッと私の手を取り指を絡めた。

こ…恋人繋ぎってやつだ…!!

「今日はこうして歩きたいな。…いい?」

赤い顔で小さくうなずくと、早苗さんはもう片方の手で私の頭を撫でた。

「それと…朱里…って、呼んでもいい?」

はぁぁ、もうダメだ!!

心臓がドキドキし過ぎておかしくなりそう!!

「イヤ…かな?」

心臓が口から飛び出してしまいそうで、私はしっかりと口を閉じたまま首を横に振った。

早苗さんはそんな私を愛しげに見つめている。

「じゃあ…行こうか、朱里。」

指を絡めて手を繋ぎ、早苗さんの隣を歩く。

動物園に来ていると言うのに、目の前にいる動物よりも早苗さんの事が気になって仕方ない。

時間が経つと少しずつ慣れてはきたものの、早苗さんが時折見せる笑顔とか、色っぽい表情とか甘い言葉に、やっぱりドキドキしてしまう。


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