季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
早苗さんは私の肩を抱き寄せて頭を撫でた。

「もう…。そういう事、言われ慣れてないからすごく恥ずかしいんです…。」

「そうなんだ。すごくかわいいのに。じゃあ、これからは俺が言ってあげるよ?」

甘い…甘すぎて萌え死にそう…。

手に持ったぬいぐるみを、思わずギュッと握りしめた。

「あんまりかわいいから、このまま連れて帰ろうかな。俺も朱里を抱きしめたい。」

「えぇっ?!」

いくらなんでもそれはまずいでしょう?!

そんな事されたら私、きっと抵抗するのも忘れてされるがままになっちゃう!!

一人あわてふためく私を見て、早苗さんが吹き出した。

「冗談だよ。」

ホッとして肩の力が抜けた…と思ったら、早苗さんは、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

「そう思ったのはホントなんだけどね。」

恥ずかしくて、早苗さんの顔が見られない。

ああもう…!!

やっぱり大人って…早苗さんって…ズルイ!!

もし早苗さんの恋人になったら、毎日ずっとこんな感じなのかな?

低くて優しい声で甘い言葉を囁かれて、あたたかい胸に抱かれて、私の中の空洞を愛情でいっぱいに満たされて…。

もしそうだとしたら、私はきっと、愛されてるって毎日実感するんだろう。

壮介とは3年も一緒にいたのに、甘い言葉にドキドキした事も、抱きしめられて安心した事もなかったし、愛されてるなんて実感した事は一度もなかった。


愛されてるって毎日実感できたら…私は幸せ…なのかな?






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