季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
マンションの前で車を停めて、早苗さんは私を抱きしめた。

いつもよりその手に力がこもっている。

「早苗さん…?」

「急かさないで待つって決めたけど…ホントは早く俺だけの朱里にしたいって思ってる。好きな子を他の男の部屋になんか帰したくない。」

早苗さんが珍しく感情を強く表した。

それは…嫉妬…なのかな?

確かに私と順平が一緒に暮らしている事は、早苗さんにとっては穏やかではないだろう。

私にとったって普通なら考えられない状況だ。

「最初に部屋を貸してやれって順平に言ったのは俺だし、今更言うのもなんだけど…朱里さえ良ければ、俺の部屋に来たっていいんだよ?」

「…それはそれでどうかと…。」

どちらにしても、私が恋人でも夫でもない男の人と暮らす事には変わりない。

「できるだけ早くお金を貯めて、新しい部屋を借りようと思ってます。」

「…貸そうか?返すのはいつでもいいし…。」

「いえ、お金の貸し借りはちょっと…。」

順平の女癖の悪さを知っているからなのか、早苗さんはよほど私を順平から引き離したいんだなぁと、笑っちゃいけないけど少しおかしくなる。

「順平…朱里に何もしない?」

されますよ、とは口が避けても言えない!!

「あの…大丈夫ですから。」

「心配なんだよ。順平は悪いやつじゃないけど男だから。女癖も良くないし。」

わかってますよ。

好きでもない女の子を食い散らかすようなやつですからね。





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