季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「……順平…?」

「俺以外に誰がいるんだよ。顔も名前も同じなのに、なんで俺だってわからないの?」

「嘘でしょ…?だって順平は…。」

「嘘なんかじゃない。」

考えるほどに混乱する。

目の前にいる順平が、私の好きだった順平?

「ずっと朱里を探してた。」

順平の唇がゆっくりと私の唇に重なった。

冷えきった唇を温めるように、順平は優しく唇をついばむ。

あの頃順平と何度も重ねた優しいキスと同じ。

長いキスの後、順平は私のブラウスのボタンを外し、首筋と胸元に何度も唇を押し当て強く吸った。

「やっ…痛い…。」

「朱里は誰にも渡さない。」

濡れたブラウスを脱がされて我に返り、慌てて両手で自分を抱きしめるように体を隠した。

順平は私の背中に手を回して下着を外した。

「やめて…。」

「なんで俺の前では隠すの?簡単に他の男に抱かれるのに?」

入り交じった思い出と現実の境目で、順平が変わってしまった私を責める。

「もうやめてよ…。」

髪から冷たい滴がポタポタと肩に落ち、冷えきった体が震えた。

冷たい頬をあたたかい滴が伝う。

「……ごめんね、順平…。ごめん…。」

あとからあとから涙が溢れる。

こんな顔を順平に見られたくなくて、両手で顔を覆った。



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