季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
順平は両手で私の手を握り、涙で濡れた頬に口付けた。

そして冷えきった体を包み込むように抱きしめた。

「朱里…ごめん、冷たかったよな…。とりあえず体あっためないと…風呂入って。」

さっきとは全然違う優しい声でそう言って、順平は浴室を出た。

順平もびしょびしょだったのに。

肌に張り付く濡れた服を脱いで洗面器の中に入れ、熱いシャワーを浴びた。

頭の中はまだ混乱して、うまく事態が飲み込めていない。

順平は私だとわかっていたのに、どうして今まで何も言わなかったんだろう?

ホントに順平なのか、それとも嘘をついているのか、どっちなんだろう?

順平はどうしてあんなに別人のように変わってしまったんだろう?

私がいなくなった後、順平の身に何が起こったんだろう?




お風呂から上がると、着替えも持たずにお風呂に入る羽目になってしまった私は、脱衣所でバスタオルを巻いたまま途方に暮れる。

脱衣所のカーテンの隙間からそっとリビングを覗くと、順平は着替えを済ませソファーに身を沈めていた。

どうしよう…。

着替え、取りに行けないよ…。

このままここにいるわけにもいかないし、せっかく温まったのに湯冷めする…。

カーテンの隙間から順平と目が合ってしまい、私は慌てて目をそらした。

「朱里?どうかした?」

「あの…着替え取りに行きたいんだけど…。」

「あ、そうか…。」





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