季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「もうやだ…。順平おかしいよ…。夕べ順平はどっか行っちゃって、帰って来なかったじゃない。ホントの事は何も言わないで、なんで嘘なんかつくの?」

「嘘なんかじゃないだろ。あんなに好きだって言って抱き合ったじゃん。ずっと一緒にいようって。愛してるって言ったじゃん!!嘘ついたのは朱里だろ!!」

目の前にいる順平は、迷子になって泣いている男の子のようだった。

手を離してしまった母親を探し続けて、泣きながらもう離さないでと訴えかけているようだ。

「……朱里、どういう事?」

「早苗さん…。私にはまだ早苗さんに話していない事があります。でも…今は混乱していて、うまく伝えられる自信がありません。少しだけ時間を下さい。」

まっすぐに早苗さんの目を見た。

早苗さんはしばらく私の目をじっと見て、静かにうなずいた。

「気持ちが落ち着いたら…ちゃんと話してくれる?」

「ハイ…必ず話します。とりあえず今日は…自分の部屋に帰ります。」

「ホントに大丈夫?」

「大丈夫です。」

早苗さんはとても心配そうにしていたけれど、私は順平と一緒に部屋に帰った。

きちんと向き合うべき時が来たのだと、私は覚悟を決めた。

もう逃げるのはやめよう。

目の前にいる順平からも、現実からも。





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