季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
恋は嘘と無情の種
部屋に戻ると、順平は私を抱きしめた。

その腕が小刻みに震えている。

「どこにでも行けなんて行ったけど…やっぱ朱里を誰にも渡したくない…。」

「順平…。私がいなくなってからの事、ちゃんと話して。私も話すから。」



あたたかいコーヒーをカップに注ぎ、テーブルに置いた。

二人でしばらく黙ってコーヒーを飲んだ後、先に口を開いたのは順平だった。

「あの時さ…朱里はなんで俺に黙っていなくなったの?」

「……不安だったの。」

「…不安?」

「順平は役者を目指してたでしょ。その夢が叶うのは何年先かわからないし…その時には私の手なんか届かないところに行っちゃうだろうし必要ないって言われるかも知れないって。」

「そんなふうに思ってたのか…。」

「一緒にいると幸せなはずなのに、つらくなったの。好きになるほどね。だから、もう終わりにしようと思ったんだ。順平は若かったけど、私の方が歳上だから…現実的に先の事が不安だった。」

「…結婚とか?」

「うん…。それだけじゃなくて…順平が突然いなくなっちゃうのはもっと怖かった。」

「病気の事?」

「そう…もし病気が再発したらって考えると怖くて…順平についていく覚悟が、私にはできなかった。順平の顔見たら離れられなくなると思ったから、舞台稽古で忙しいうちに黙って消えたの。」





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