季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
冷めきったコーヒーを飲みながら、順平の言った言葉を思い出してみる。

有りもしない事を信じるには、必ず何かきっかけがあったはずだ。

それがなんなのかはわからないけれど、私は嘘をついていないし、順平も嘘をついているようには見えない。

私が黙り込んでいると、順平がテーブルの上で私の手を握った。

「それで朱里は…俺の事なんかもうどうでもいいって思ってる?」

どうでもいいとは思っていない。

だけど今は、どうしていいかわからないというのが本音だ。

昔のままで元に戻れるとは思えない。

「……ホントに好きだった。ずっと忘れた事なんてないよ。だけど…。」

「俺のところに戻って来て欲しい。もう朱里がいやがるような事はしない。浮気もしない。大事にする。だからもう一度、俺だけを見て。」


私はもう一度、順平とやり直せる?

順平といれば、あの頃みたいに幸せな気持ちになれるのかな?

ハッキリと答えられない。

「……少し考えさせて。いろんな事がありすぎて…気持ちの整理がつかない…。」

引っ込めようとした手を、順平は逃がさないとでも言うように強く握り直した。

「俺よりマスターが好き?」

真剣な目で見つめられ、私はうつむいた。

「……わからないよ…。」

「自分の気持ちなのにわからないの?」

「ごめん…。」




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