季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
ずっと順平を忘れたくなくて、もう本気で誰も好きになったりはしないと思っていた。

もう会う事はないと思っていた順平が、目の前にいる。

好きなら何も迷う事なんてないはずなのに、私は順平の手を取る事を躊躇している。

自分の気持ちがわからない。

順平は立ち上がって私の隣に座り、私をギュッと抱きしめた。

「俺は今も朱里が好きだ。もういつ病気で倒れる心配もない。ずっと朱里のそばにいる。どうすればあの頃みたいに俺だけを見てくれる?こうすれば…あの頃と同じ気持ちになる?」

順平は私の顎を持ち上げて突然唇を塞いだ。

あの頃とは違う少し強引なキスに、順平の焦りを感じる。

私が顎を引いて唇を離すと、順平は私の頭を引き寄せて更に唇を貪った。

息をするのも忘れそうなほどの激しいキスで、順平は私を追い詰める。

あまりの息苦しさに耐えかねた私は握りしめた両手で順平の胸をドンドン叩いた。

やっと解放された唇から空気を吸い込み、手の甲で唇を押さえた。

「俺がキスしたいのは朱里だけなんだ。だから他の女にはしないし、させない。朱里も…俺にだけして欲しい。」

順平が必死で私を取り戻そうとしているのがわかった。

思い詰めたその目にたじろいでしまう。

「順平…私…。」

どうしていいかわからず、言葉にならない。

順平は、何も答えられない私を悲しそうに見つめた。

「また…俺を捨てて、他の男のところに行くつもり?」



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