季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
鋭い刃物で斬りつけられたように、胸が激しく痛んだ。

私は私自身を守るために順平を捨てた。

その過去は変えられない。

自分の命が残りわずかだと悟った時に、順平はもう一度私に会いたいと思ってくれた。

いなくなった私をずっと探してくれていた。

順平を傷付けてしまったのは弱かった私。

何度も交わした約束をやぶってしまった罪を、私は償わなければいけない。

今なら何も恐れず、順平と一緒に同じ未来を目指す事ができるだろうか?

ずっと好きだった順平ともう一度一緒にいられるんだから、きっと幸せなはずだ。

二人ともあの頃とは違うけど、それでもきっとまた、昔みたいに…。

あの頃よりも幸せな気持ちでそばにいられるのなら…。


「…行かないよ…。順平と…一緒にいる…。」

無意識のうちに、そう言っていた。

「ホントに…?」

「…うん。」

「マスターの事は?」

「ちゃんと話して断るよ。マスターとは付き合ってたわけじゃないし…好きとか…そういうんじゃなかったから…。」

「じゃあ…俺の事、好き?」

「うん…好きだよ。」

順平は嬉しそうに笑って、包み込むように優しく私を抱きしめた。

「朱里…おかえり、やっと俺んとこ帰ってきてくれた…。もう絶対離さない。」




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