季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
目が覚めると、隣に順平の姿はなかった。

バイトに行ったのかな。

身支度を整えながら、夕べの事を思い出す。

早苗さんに順平の事を話すのは正直気が重い。

私の気持ちが早苗さんに向くまで待つと言ってくれたのに、それに応える事はできない。

きっと私の心は早苗さんに傾きかけていた。

完全に早苗さんを好きになっていない今ならまだ、なかった事にできるだろう。

順平を選んだのは私だ。

もう後戻りはできない。




いつものようにカフェのバイトを終えると、早苗さんが事務所から顔を出した。

気まずくて、息が苦しい。

「朱里…この後、時間ある?」

「ハイ…。」




着替えを済ませて事務所に行くと、場所を変えようと早苗さんが言った。

店から少し離れたカフェに入り、コーヒーをオーダーした。

少しの間、二人とも黙ってコーヒーを飲んだ。

話さなきゃと思うほど、言葉が出てこない。

「昨日あれから…順平にひどい事されなかった?」

早苗さんの顔を見られない。

私はうつむいたままうなずいた。

ひどい事はされていない。

けれど、私は…。

「順平と何があったのか、話してくれる?」

早苗さんがためらいがちに尋ねた。

早苗さんに隠しているわけにはいかない。

覚悟を決めて、正直に全部話そう。

「私…順平と付き合ってました。」





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