季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
バーを辞めてから、夜のバイトを探して何度か面接に行き、やっとファミレスのキッチンで雇ってもらえる事になった。

夜の7時から閉店時間の2時までキッチンで調理の仕事をして、閉店作業を終えると、だいたい2時半頃に店を出る。

10日ほども経つと仕事にも職場の人たちにも随分慣れてきた。

ディナータイムのラッシュ時は目が回るような忙しさだけれど、それも慣れてくると楽しい。

仕事が終わって部屋に帰ると、順平は既に寝ている事が多い。

そんな日は順平とセックスをしなくて済むので少しホッとする。

いつの間にか、順平に求められる事が苦痛になっていると気付いた。

一緒に暮らしていてもほとんど顔を合わさず、たいした会話もしない。

そのうえ求められるのが体だけなんて、私は一体なんのために順平と一緒にいるんだろう?

順平は本当に私が好きなのかさえ疑わしい。

あんなに必死で私を取り戻そうとしていたのはなんだったんだろう?

順平はもう、優しかった昔の順平じゃない。

一緒にいれば昔みたいに幸せな気持ちになれるかもと思っていたけれど、私の心はもう冷えきってしまって、順平を選んだ事を後悔し始めている。

せめてもう少し、昔みたいに優しくしてくれたら、私もまた順平が好きだと心から言えるかも知れないのに。


それでも順平を選んだのは私。


今更早苗さんに甘えるわけにはいかない。





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