季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
早苗さんに抱かれ、何度もキスされたあの日の記憶が脳裏をかすめ、心臓が壊れそうなくらい大きな音をたてた。

早苗さんの顔がゆっくりと近付いてくる。

「ダメ…です…。」

そのまま流されてしまいたい気持ちを必死で抑えて、やっとの思いで声を絞り出した。

「イヤじゃないの?」

「……イヤ…」

イヤです、と言おうとした私の言葉を遮って、早苗さんは私を引き寄せ唇を塞いだ。

「んっ…!」

突然のキスに思わず声がもれた。

早苗さんの腕の中で、柔らかい唇を重ねられ、湿った舌先を絡められて、他の事はもう何も考えられなくなってしまう。

「…嘘つき。」

長いキスの後、早苗さんは私を抱きしめてポツリと呟いた。

「嘘じゃない…。」

「俺の事がイヤなら…順平といて幸せなら、俺の前でそんな顔しないだろ。」

早苗さんは意地悪だ。

私の気持ちを見透かして、ヘタな嘘もつかせてくれない。

「…離して下さい。買い物に行かないと…。」

「そうだったな…。」

早苗さんの手が離れると、さっきまでその手に触れられていた場所が、急激に早苗さんの温度を失っていく。

これ以上一緒にいると涙が溢れそうで、私は慌ててその場から逃げるように駆け出した。

「朱里、俺は待ってるから!!」

背中越しに早苗さんの声が聞こえた。



私は早苗さんが好きだ。

切なくて、苦しくて、泣きたくなるほど。








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