季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「朱里の作った料理、毎日食べたいな。」

「え?」

「店の賄いじゃなくて…俺のためだけに朱里が作ってくれた料理、毎日食べたい。」

「…っ。し、失礼します!!」


急いでドアを開けて事務所を出た。

心臓がドキドキして、息が苦しい。

あれじゃまるでプロポーズだよ…。

急にあんな事言われるとは思わなかった。

そんな事、壮介は一緒に暮らしていても一度も言ってくれなかった。

順平だって今はそんな事言ってくれないし、私の作った料理を食べてもくれない。

だけど昔は順平も、私の作った料理を美味しいと言ってたくさん食べてくれた。

“朱里の作った料理は全部好き”って、いつも言ってくれた。

特に好きだったのは塩唐揚げだった。

アスパラとニンジンを牛肉で巻いて焼き肉のタレを絡めて焼いたのも好きだったっけ。


今度、順平が昔好きだった料理を作ってみようか。

昔みたいに優しく笑ってくれたら、私の迷いも断ち切れるのかも知れない。

そうすれば、こんなふうに早苗さんにドキドキしたりしなくなるはず。

順平以外の人を好きでいていいわけがない。

今の私は、壮介のした事を責められない。

このままじゃ順平の顔もまともに見られない。

早苗さんへの気持ちは捨てなくちゃ。


私は順平と一緒にいるって決めたんだ。







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