季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
若い男女の6人組が、誰かの誕生パーティーだとかで随分盛り上がっている。

今日の主役にプレゼントを渡したり、一緒に写真を撮ったり、何度も乾杯して楽しそうだ。

お酒もたくさん出たし、料理のオーダーが多かったので、早苗さん一人だと大変だったに違いない。

その他の客もいつもより少し多かった。

少しは早苗さんの役に立てたかな。

余計な事を考えずに早苗さんのそばにいられたから、忙しくてホントに良かった。



2時前にやっと最後の客が帰り、看板の灯りを消した。

早苗さんと二人で閉店作業を終えて、店を出たのは2時半前だった。

「今日は助かったよ、ありがとう。」

「お役に立てて良かったです。」

「遅くなったし送るよ。」

一人で帰るより早苗さんと一緒の方が夜道は安全だけど…私の気持ちがもう限界だ。

「いえ…大丈夫です。」

「送るよ。なんかあったら大変だから。」

こんな時の早苗さんは有無を言わせない。

仕方ないので大人しく従うことにした。

早苗さんと二人で並んで歩くのは久しぶりだ。

なんだか歩くペースが遅いような…。

以前のように、早苗さんが私の手を握った。

「手は繋がなくていいです…。」

「また、ダメって言う?」

「…ダメです…。」

早苗さんは一度ギュッと私の手を握ってから、ゆっくりと手を離した。

それから二人で黙ったままゆっくりと歩いた。

いつも寄り道した公園を通り過ぎ、まっすぐマンションにたどり着いた。


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