季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
その夜、私は志穂に電話して今日壮介から聞いた話をした。

志穂も紗耶香から聞いた話と違うと混乱しているようだった。

「紗耶香…なんで私にまであんな嘘なんかついたのかな?」

「志穂に話せば、私にも伝わると思ってたのかなあ…。私が壮介と紗耶香の仲を疑って喧嘩になると思ったとか…。」

「でもさぁ…ありもしない事、よく本当にあった事のように話せるよね。結局、紗耶香の子は壮介さんの子じゃないって…一体誰の子なんだろ?」

「それは紗耶香にしかわからないよ。壮介もショック受けてた。」

「壮介さんは自業自得って気もするけどさ…浮気はしたけど、ホントは朱里の事、ちゃんと好きだったんだね。」

「うーん…。なんか複雑。」

壮介との結婚が破談になった今になって壮介の本音を知っても、今更もう遅い。

壮介にとっても、紗耶香と結婚して子供が生まれた後で、その子が自分の子でないと知っても今更どうにもならない。

順平を選んだ後になって、早苗さんが好きだと気付いてしまった事にしてもそうだ。

気付かなければ、私は順平に対してこんな後ろめたい気持ちにもならなかったし、早苗さんを想って胸を痛める事もなかった。

「ねぇ志穂…。知らない方が幸せな事ってあるんだねぇ…。」

「ん?そうかなぁ…。私は知りたいよ。」

こういうところは志穂らしい。

なんでも白黒ハッキリつけなきゃ気が済まないんだから。



< 168 / 208 >

この作品をシェア

pagetop